あた〜らしい春が来た♪
 

 “好き嫌いも知ってたい?” 



冬から引き続きの何とも忙しい寒暖差に揉まれつつ、
突風つきでの春の嵐も襲った中、
長さとしては十分堪能できた方な
あでやか華やかだった桜に浮かれた空気も何とか落ち着いて。
ふと気がつけば、
山谷のみならず街中でも あちこちに新緑の兆しが顔を出しつつある頃合いで。

 「ビワや夾竹桃に、淡い色の枝がたくさん出て来ているよね。」
 「そうそう。
  ついつい つつじの花の鮮やかさに見とれるけど、
  同じような茂みのサツキにも
  新芽の淡い葉が顔を出し始めているようだしね。。」

ユキヤナギも 花房の白がようよう映えるほどに
鮮やかな黄緑の若い葉が萌え出ているし、
桜やモクレンも新芽が出始めててキラキラときれいだよねと。
イエスもブッダも
ちょっとしたお出掛けやらお散歩やらのたびに目にする何やかやへ、
ついのこととて嬉しそうな笑顔つきでのコメントがどうしてもこぼれてやまぬ。
森羅万象、あらゆる事物現象への感応力とやらが
鋭敏…というか 豊かであるらしき最聖のお二人にしてみれば、
大地に巡る地脈の及ぼすものであれ、
蒼穹翔る風のもたらす恵みの慈雨が育んだそれであれ、
木の芽どきの瑞々しい気配は
あまりに健気で小さき気配なものだから、
祝福したくてたまらないほどの喜びの息吹でもあるようで。

 「そんな芽吹きを摘んでしまうのは、
  ちょっぴり心苦しいことだったけれど。」

月に何度か何かしらのお片づけが組まれている町内会の行事にて、
本格的なそれではないながら、
そろそろ目に付き出したのでという
草むしり作業に召集がかかった彼らだったようで。
せっかく芽生えた若芽には違いないのに
人の手で植えられた茂みはよくて、その根元から勝手に生えた雑草は排除というの、
イエスにはちょっぴり理不尽な作業でもあったようだけど、

 「そうだね。
  でも、整然と片付いていないのは、
  町の油断や隙のようなものを現してて危険だともいうしね。」

割れガラス理論ですね、ブッダ様。
窓ガラスが割れたままになっているような町は、
人の気持ちや心持ちも荒んでいて、軽犯罪の温床になりかねぬ。
落書きやごみの散らかりようも同じことで、
きちんきちんと片づけようという道徳心やモラルの高さが
街の在りようへも表れるとする考え方で。

 「それに、草むらが深くなるとやぶ蚊の住処にもなるしね。」
 「あ、そうだった。」

蚊って暗いところが好きだそうで。
なので、黒い服を好むし、
明かりを消すと家具の陰から枕元なんかへ出てくるし。
昼間でも影の濃くなる草むらも、彼らの好む居場所となりかねないので、
それも考えて草引きはマメにした方がいいらしい。
町内会のお仕事へもきっちり顔を出す彼らには、
奥様方もすっかりと気を許しており。
子供受け・女子高生受けの良い、愛嬌たっぷりのイエスと、
博識で礼儀正しく、案外と力持ちなブッダはそれぞれに頼りにもされていて。
…というか、ちゃんとそういう特性を見抜かれた上で、
それぞれに活躍しやすい場へと引っ張り出されてもいるようで。

 『イエスがいるからって、
  子供たち任せっきりにしてお料理談議になっちゃうのは
  ちょっと考えものだけどもね。』

 『うん。場合によってはちょっと困るかな。』

まだ他の人へは馴染みにムラがあったころ、
そんなような事情からイエスが子守りがてら子供と遊んでいたところ、
巡回中のお巡りさんから不審人物かと声かけられたこともあって。

 『今は懐かしい話だけどね。』
 『そだね。お巡りさんとも顔なじみになっちゃったし。』

おいおい。(笑)
ま、まあ、それほどまでに街に馴染んだお二人なのはいいことだし。
初夏間近を思わせるよな いいお日和の中、
鮮やかなつつじも咲き乱れる公園にて、
そんな和気あいあいとした集いでの作業を終えて、
楽しかったねと戻ってきた此処での我が家にて、

 「さあ、お昼にしよっか。」
 「うん。あ、私 お吸い物作るね。」
 「じゃあ、私は お湯沸かしてお茶の用意を。」

まだまだ晩のうちは寒いのが寄ってくる日もあるのでと、
スイッチこそ入れなくなったものの、まだ仕舞われてはない
冬の名残りのこたつの天板の上へと置かれたのは、
出先でそれぞれが持ち寄ってこられた奥様方からいただいた、
海苔巻きや炊き込みご飯のおにぎりだったりし。
ブッダがお料理上手だというのは知れ渡っているので、
男所帯だからという順番の気遣いとは思えない…のだけれど。

 『いやいや案外と、
  そういう要素って ぼこぉっと抜け落ちちゃうこともあるんじゃないの?』

平生の日課にこういうことが割り込んじゃうと、
そこはやっぱり何だかだ言っても男の人だし
用意してないかもしれないって気を回されたのかも。
それか奥さん方の母性がくすぐられたんだったりしてと、
言いかかって、だがだがそっちは、

 “…ってのは、何だか私がちょっと面白くないから無し。”

おいおいイエス様、
いくら天然だとはいえ、それはまずいんじゃなかろうか?(笑)
そんなこんなはともかくとして、
せっかくいただいたお昼の数々、
ちょっと豪華なお弁当として さあ食べようとの準備に取り掛かる。
ご飯ものが多かったのでと、
ブッダが手早く昆布だしを取ってエノキと絹ごし豆腐でお吸い物を作れば、
イエスは沸騰湯沸かしポットでお茶のための湯を沸かす。
それだけでは手持無沙汰なので、こたつの上のセッティングも承って、
取り皿とお箸と湯呑を運び、手拭き用のお絞りも準備したところで、
お湯も沸いたしお澄ましも出来たらしく。

 「え?お漬物も貰ったの?」
 「うん、こっちは松田さんから今朝貰ったものだけどもね。」

キュウリとナスの浅漬けも合体し、
ブッダがベジタリアンだからということか、
山菜のとアナゴときゅうりのと、きっちり中身が分かれている海苔巻きが1本ずつと、
タケノコと油揚げの炊き込みご飯を握ったおむすびに、
菜の花のワサビ和えと
フキと高野豆腐と絹さや、ニンジン、シイタケの炊き合わせに、
アスパラの豚肉巻きというなかなかの品揃えのお昼ごはんで。

 「いただきますvv」
 「いっただきま〜すvv」

わぁいという擬音が背景に浮かびそうな勢い、
楽しそうに箸をつけるイエスなのへ、
無邪気だなぁと くすすと笑い、まずはと吸い物の椀を持ち上げたブッダ。
うん、出汁と塩加減の按配もちょうどだなと満足しつつ、
視界から椀を下げれば、

 「…どうしたの?イエス。」

ほんのついさっきと打って変わって、
困った困ったというお顔のイエスなのへとこちらもびっくり。
何かあったか、もしかしてこのタイミングに
“断食の行を始めよ”とかいうお父様からの天啓でも降り立ったかと、
何へのがっかりかを訊いたれば、

 「うん、こっちのアナゴって三つ葉も入ってる。」
 「ありゃ。」

そういや嫌いって言ってたねと、そこはちゃんと把握もしていて。

 「ちょっと待ってね、取り除けば大丈夫だよね。」
 「うん。」

小口に切っておいたのから、器用にも形を崩さずの手際よく、
小さな小さな三つ葉の切れてるのを、余さず摘まみ取ってしまう辺り。
相変わらずに過保護というか、
いやいやこれは、母性ではなく恋人への気遣いだからしょうがないというところか。

 “…何を言ってますか。//////”

おや、聞こえてましたか、失礼しました。(笑)
すっかりと三つ葉が除かれたのを見やって、ほおと胸元押さえたイエス。
そのまま一つ摘まみ上げ、安心しきってパクリと口にするところなぞ、
現金といや現金だったが、

 「ブッダが作ってくれるものだと、こういう不意打ちってないから
  すっかり油断しまくってたなぁ。」

もむもむと堪能しつつ、そんなお言いようをするところが、
聞く人が他にいなくてよかった、それこそ油断しまくりの言であり。
美味しい美味しいと素直に箸が進むのへ、
一応は褒めてもらえてのかなと苦笑をしつつ、

 「イエスって結構好き嫌い多いよね。」

菜の花のワサビ和えを、お・これ美味しいと目を見張りながら
日頃からも思ってたこと、こちらもついつい口にする。

 「え〜、そうかなぁ。」
 「ゆずも苦手でしょ?」

素早い指摘へ、あ・うん、そうそうと、
嘘で虚勢を張ってもしょうがないか、そこは素直に認めておいで。

 「日本のハーブって独特だから。」

シソも匂いがちょっと苦手かなと苦笑をするのへ、
それも知ってますと、
だがだがそこは情けを掛けてか胸の内にてお返事すれば、

 「あ・でも、
  酢のものとこんにゃくは食べられるようになったんだよ?」

 「え?」

炊き合わせの中、千切りこんにゃくが混ざっていたのをよいしょと摘まみ、
ひょいと自分の口まで運んだイエスへ、

 「…苦手だった?」

それこそ意外と、大きめの双眸をますますと見開いて驚いた如来様。
ここでの食事はほとんどが自分の手になるものだし、
食べるところはそれこそ外食でもようよう見守っているから。
イエスの好き嫌いとか許容量とか、
しっかり把握できてたつもりでいたのにね。
それは気づかなかったなぁと、盲点を突かれたように驚いているブッダなのへ、

 「うん。
  こんにゃくは飲みこむのが大変だったし、
  酢の物もどこだったか外で食べたのが酸っぱくて、
  あ、これはダメかなって、私の中でバツつけてたんだけど。」

口許のお髭ごと、ふふーと和やかに笑う形で弧にして続いたのが、

 「ブッダが作ってくれた肉なし肉じゃがとか筑前煮とか、
  こんにゃくにも味がついてて美味しかったし。
  春雨の酢の物とか、甘い目にしてくれてて食べやすかったから。」

美味しければそりゃ食べちゃうさと、
やはりどこか現金な言いようをしたイエスだったのに、

 「そ、そうなんだ。////////」

知らなかったのが不覚、
でもでも、なんでだろ、胸の内が 嬉しいなでいっぱいで落ち着かない。

 ほら、食べよう食べよう♪
 あ・うん。///////
 あとで植物園のサイト観ようね、そろそろバラ園を開放してるかもしれないし。
 うん、そうだね。///////

お昼ごはん一つでも、何だかドキドキしてしまう、
初々しいところは相変わらずな、
初夏間近の緑の風を待つ お二人だったようでございますvv




  ◇おまけ◇


そういやブッダは好き嫌いないよねと、
菜の花のワサビ和え、彼にはちょっぴりワサビが強かったか、
むむうと眉をしかめつつイエスが訊いたので、

 「あ、肉や魚はおいといてだけど。」
 「…うん、そうだね。」

お約束のオチをどうもと、
キュウリの浅漬けを口直しに差し出しつつ応じてから、

 「私の場合は立場から染みついてるってのもあるんだけれどもね。」

ちゃんと理由はあるんだと告げたブッダであり。

 「あ。托鉢とかでいただいたご報謝へは好き嫌い言えないから?」
 「それもあるけどもっと前からの習慣というか。」

あんまり褒められたことじゃあないものなのか、
困りごとを語るような、くすぐったげな顔になったそのまま、

 「王子時代はね、何でも食べておかないと、
  嫌いだなんて言ったらそのまま、
  私が生きてる間じゅう禁忌の食べ物になりかねないし。」

 「…え?」

 「逆に好物だと公言したものは、
  縁起を担いで持てはやされた挙句、
  それを栽培する者ばかりが続出しかねなかったから、
  うっかり言うわけにもいかなかったし。」

それと判るような偏った食べ方もできなくてねと、
あっけらかんと笑った釈迦牟尼様だったれど、

 「そっか、そうなんだ…。」

食べ物の好き嫌いくらい自由が利いてもいいんじゃないかとか、
食べることもさして楽しみではなかったのかなとか、
下々には縁のない セレブ生活の一端を聞かされたよな気がした
イエスだったりしたのだった。



    〜Fine〜  16.04.20.


 *拍手お礼に書いたのですが、
  これでは微妙に長すぎかなと…。
  あ、ちょろりと予告していました
  バトンのおまけは もうちょっとお待ちを。
  おしもとが何か落ち着けないので、
  ペースが掴めなくてねぇ…。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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